テスト:官民連携プラットフォーム事例紹介


ひと息つきたいとき、あるいはリフレッシュしたいとき、何をしますか?
そう聞かれて「お茶を淹れて飲む」と答える人は、若い世代ほど少ないかもしれない。
でも、お茶の小売業を営む老舗の若き三代目は知っている。暮らしの中にお茶があることの豊かさは、時代の中で色褪せたりしないことを。

価格での勝負から、付加価値の勝負へ

個包装のティーバッグが現在「柿の葉茶×ほうじ茶」「緑茶」「ジャスミン茶」「ルイボスティー」「とうもろこし茶」の五種類。かわいいイラストがあしらわれたパッケージが目を引く。ひとパックが百四十円と求めやすい価格で、味わいや効能に応じて「ZZZZ TEA」「GOHAN TEA」「REFRESH TEA」といった商品名が付されてる。三角錐のティーバッグにお湯を注いで飲んでみると、普段のお茶よりも一段上質な風味。時間をかけて水出しすると、よりすっきりとした味わいを楽しむことができる。友人や家族へのちょっとした贈り物にもよさそうだ。

店頭で見かけたら二つ三つ買って帰りたくなりそうなこのティーバッグブランドの名は「t to(ティートゥー)」。兵庫県姫路市で七十年以上、お茶の小売業と卸業を営んできた「播磨屋茶舗」の若き三代目、赤松佳幸さんが二〇二一年十月に立ち上げた。掲げるのは「かんたん、おいしい。しかも、ヘルシー」。お茶を淹れて飲むといった生活習慣の希薄化した若い世代をターゲットとし、各所で話題を呼んでいる。

個包装での販売のほか、ティーバッグ7個入りのパック、5種類がぞれぞれに1個ずつ入ったセットなどがある。水出しだと250mlで4時間、450mlで7時間が抽出の目安だ

「うちの売り上げの大部分は、祖父の代から始めた全国規模のスーパーマーケットチェーンへの卸しです。ただ、お茶の消費量は減り続けていて、袋入りのお茶の葉の販売数も下がる一方。このままスーパーに頼り続けていると将来的にまずいのは明らかなんです」

そこで赤松さんが着手したのが、雑貨店での販売というこれまでは想定されていなかった販路。どんな商品なら現在二十九歳の自身と同世代の人たちが興味を持ってくれるのか。時間をかけて構想を練ったという。
従来のお茶が持つ〝渋い〟イメージを大きく変えるのが、そのポップなパッケージだ。デザインは写真共有サービス「ピンタレスト」で見つけたというデザイナー、増永明子さんの手によるもの。現時点で関東地方を中心とした六十三店舗で販売され、当初から意図していた通り大部分が雑貨店。「三年目で年間売り上げを一千万円に」という当初目標は、二年目で早くも達成できそうな見通しだという。

「もともと継ぐ気はなかった」

「当時から袋詰めのお茶の消費は減少傾向にあった一方で、ティーバッグの市場は全国的に伸びていました。現在、うちには加工用の機械の技術者がいるので、メーカーに頼らず自分たちで機械のメンテナンスができる。配線をいじって改良することもできる。だから質の高いティーバッグを作れるんです」

ティーバッグの「抽出性」は、素材や形状によって大きく左右される。いい素材を用いた三角錐のティーバッグが最も茶葉が広がりやすく、美味しく抽出できるという。

「中高生の頃はとにかく姫路を出たくて仕方がなかった。家の商売にも無関心で、お茶もあまり飲まず、自分で淹れたこともありませんでした」

高校卒業後は横浜国立大に進学。卒業後は全国でフィットネスクラブを展開する企業に就職した。

「大学時代、ビジネスを通して社会課題を解決することに興味を持つようになりました。その企業はフィットネス事業によって少子高齢化、健康寿命といった社会課題に取り組んでいたんです。東京のど真ん中にオフィスがあるのを見て、『かっこいいなあ』という純粋な憧れの気持ちも抱きました」

入社から半年ほど経った頃、赤松さんは新規事業に携わることになり、鳥取県大山町に赴任。同僚ら七人で共同生活を送ることになった。

「製茶問屋とは、茶畑で採れたままの『荒茶』を農家から買い、市販される状態の『仕上げ茶』に加工する業者のこと。例えば同じ緑茶でも種類、産地、部位、季節で味は違う。それまで家業に関心を向けてこなかったからこそ、お茶のことを一から勉強しました」

ウェブサイトの刷新、インスタグラムの運用といった、父の修二さんには不得手なことにも着手。徐々に新規事業にも意識が向き始めた赤松さんは、中川政七商店主催の経営の講座でブランディングの手法を学び、すでにあるティーバッグ加工の設備と技術を活用したブランドづくりを思いついた。

現在、社員は10人ほどで、パートを含めると計約30人が播磨屋茶舗で働く。「自分自身もまだお茶について勉強不足。まずは自分が学び、それを従業員にも伝えていきたいですね」と赤松さん

「日常的に急須でお茶を淹れて飲むという人は今後、ますます少なくなっていきます。そうであるならば、お茶のある暮らしを別のかたちで提案していく必要があると考えたんです」

パジャマで寝転がっていたり、スケボーで滑走していたりするパッケージのイラストも、「お茶のあるシーン」の提案を意図したものだ。

「広めたいことの一つが、ボトルでお茶を淹れて持ち歩く習慣なんです。朝、水とティーバッグを入れておくと、出先や職場でおいしい水出しのお茶を飲むことができる。蓋つきのマグカップももっと普及させたい。お茶は少し蒸らした方がおいしいし、取り出したティーバッグを蓋に置いておけて便利。今後はお茶だけでなく、関連する雑貨も併せて売っていきたいんですよね」
「t to」の存在は、播磨屋茶舗のティーバッグ加工技術を周知させるという副次的効果ももたらしたそうだ。

「『こういうティーバッグを作れませんか』といった問い合わせが会社に来るようになりました。ニュース性のあるブランドを作ったことで、メディアに取材していただく機会が増え、会社自体の知名度が上がったと感じます」

では、父・修二さんの目に赤松さんの姿はどう映っているのか。赤松さんのいないところで聞いてみると「僕にできないことをやっているし、ちゃんと結果も出している。正直、すごいなと思っています」と感心しきりだ。もとは製紙工場に勤めていたという修二さんが、妻の実家の家業だった播磨屋茶舗に入ったのは二十九歳のころ。四十歳で先代から経営を引き継いだ.

家業を継ぐことは、地域を継ぐこと

起業ではなく、長く続く家業を継ぎながら変化、拡張させていく後継ぎという生き方。そのことに伴う喜びや苦しみは、同じ道に進んだ者同士でないと分かり得ない部分も多い。その点、赤松さんには心強い仲間がいる。

姫路市街地から車で四十分ほど。神崎郡市川町にある育苗農家「文化農場」の三代目、小野未花子さんは赤松さんいわく「めちゃくちゃ行動力のある、地域のハブのような存在」。ロンドン大学に進学後、現地の教育系IT企業に勤めたという異色の経歴の持ち主だ。

「今は一年でもっとも苗の少ない時期」(小野さん)だというか、それでもビニールハウス内には色とりどりの苗が。チャレンジ精神旺盛な父親の下でさらに事業を刷新していこうとする点で、小野さんと赤松さんは境遇が近い

「育苗農家とは野菜の保育所のような仕事。三百種ぐらいの苗の〝子ども〟を預かって、育て、ホームセンターの家庭菜園コーナなどに卸しています」と小野さん。家業を継ごうと思ったきっかけは、イギリスの豊かな家庭菜園文化を目の当たりにしたことだった。

「イングリッシュガーデンと聞くと、芝生や草花をイメージする人が多いかもしれませんが、実は菜園も含みます。日本ではトマトならトマトだけをたくさん植えていきますが、イギリスではトマト、ナス、ハーブ、他の葉物野菜……と多品種を一緒に植えて、その景観を楽しむ。イギリス人にとっての家庭菜園は、アートに近いものなんです」

イギリスの豊かな家庭菜園文化の要素を取り入れることで、家庭菜園人口が減り続ける日本の現状を変えていけないだろうか。そう考えた小野さんはウェブでの情報発信や通販に加え、保育所や小学校を対象にした家庭菜園のワークショップなどを開催してきた。

「今も家庭菜園をする人の多くは、祖父母がやっていたとか、幼稚園に菜園があったといった、過去に何らかの形で家庭菜園に触れる体験をしています。まずはできるだけ多くの人に家庭菜園を体験してもらうために、たくさんの〝入り口〟を作りたいんです」

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