地元を出なくても挑戦できる環境を官民でつくる

「何かしたいなら東京に行くしかない」という大人たちからの言葉。
「東京へは行けないから自分の夢を諦めるしかないのか」と諦める若者たち。
そんな若者を救いたいと地元岡山で、官と連携しながら走り続けるベンチャーファンド『Setouchi Startups』。
立ち上げた藤田さん、山田さん2人の想いとは。


ゲスト

藤田 圭一郎 
(有)藤田酒店 店主
(株)COMPUS 代表取締役

山田 邦明
しろし inc.CEO
弁護士
筑波大学非常勤講師
無花果高等学園CEO

コーディネーター

脇 雅昭
よんなな会/オンライン市役所発起人
神奈川県理事(未来戦略担当)


脇 お二人はベンチャーキャピタルを運営されていますが、それ以前から、それぞれでも活動をされています。
まずは一人ひとりの話を聞きたいのですが、藤田さんは現在どんな活動をされていていますか。また、その活動をされた経緯を教えてください。

藤田 僕の家は家業として酒屋をやっていて、深夜までお酒を飲食店などに配達しています。親から頼まれたわけではありませんが、家族とは仲がいいので放っておけず、自分から酒屋を継ぐことにしました。
酒屋の仕事をしながら、地方学生に特化した長期インターン求人「COMPUS」というサービスを作っています。
地方学生の中には、成長意欲が高く、ベンチャー企業などで「アルバイトより実践的な仕事をしたい」という思いを持った子が定数いるのに、その受け皿が岡山にはなかったんですよね。
だから学生は、休学して都会に出るしか選択肢がない。そういった課題を解決したくてインターンのマッチングサービスを作りました。
短期間無償で働くのではなく、ガッツリと一年とか長期でお試し就職をしてもらうものです。サービスを立ち上げたきっかけは、私が15年前に関西の大学に入り、スキルアップできるバイトがしたくてITベンチャー企業を探したところ、簡単に見つからなかったこと。
探すのに苦労したんですが、なんとか企業を見つけて長期インターンとして雇ってもらうことができ、そこでの経験がとても役に立ったんです。
経営者と間近で働いて、社会人とも一緒になって仕事ができ、今の起業家人生のビジネスの礎になっています。15年経った今でもそんな経験は岡山ではなかなかできないし、岡山でできないのが良くないなと考えるようになりました。
そこから、岡山の若者や大学生が住んでいる場所に囚われることなくスキルアップを目指せる環境を作れないかという想いに至りました。

脇 なるほど、ご自身の成功体験があり、岡山にそういう学生のニーズに応える環境が整っていなかったので作ろうとされたのですね。

藤田 そうです。意識の高い学生が、僕たちがアドバイザーとして関わっている岡山市運営のスタートアップ応援施設「ももスタ」によく来ていて、そういった声をたくさん聞いたので。そこから今の「COMPUS」につながっています。

すべての人に〝よい〟教育を届けたい

脇 山田さんはどんなことをしているのでしょうか。

山田 僕は「教育」と「クリエイター支援」をしています。
教育では、今はフリースクールと通信制サポート校の運営をやっています。通信制サポート校というのは、高校と提携して高校卒業の資格が取れる学校になります。
元々は小・中学生が対象のフリースクールをやっていました。そこに来ている子が「大学に行きたい」と言うようになり、それには高卒の資格が必要なので、だったら資格が取れる学校を作ろうと。

脇 それで学校を作ったのですね。教育という分野にはどんな想いがあるのですか。

山田 学びたい人が、学びたい形で、学びたい教育を受けられることが理想だと思っています。だからそれを実現したかったんです。
また、フリースクールにもいろいろとあって、子どもたちにとって最善なのかと疑うようなスクールも実際にあります。
学校に行けない、行かないとなったとき、たどり着いた先がそんな状態でも、その子たちには他に選択肢がありませんでした。学ぶためのお金も学校によって違うし、裕福でない家庭の子が高額なスクールに通うのも難しい。
いろんな状況にある子やその親たちと「ももスタ」で出会って、なんとかしたいという気持ちになりました。

脇 すごく素敵なことだと思いますが、実際に低額でサステナブルに続けることって難しくないですか。

山田 その通りです。
ビジネス的にやらないと継続できないですし、だから高額な費用になっているスクールも実際にあります。そこをなんとかするために、完全寄付型の運営方式に来年から切り替えようと考えています。というか、もう決めてしまいました。
まだどうなるか分かりませんが、決めたことなので、あとはどうやって実現するか日々考えています。
一つの方向性としては、応援してくれる方々にはもちろん、フリースクールを卒業した子たちに月に少しでもいいから寄付を募りたいと考えています。
そしてまた、卒業した子が寄付をするというサイクルができれば、うまく回ると思います。今の料金でも高くはないと思うのですが、そのお金を払うのが難しいからと入るのを諦める人も年間半分くらいいます。
その半分の人たちに教育を届けるためには無償にするのが最も良いと思っているので、本当に苦しいですが、そこに挑戦します。あと、無償にすることで教育のレベルを落とすことは絶対にしません。
これまでと同じ有償レベルの教育を、無償で提供することに意味がある。有料でニーズに応じたサービスが成り立っている教育を、無償でも提供できるシステムを作ることに意味や価値があると思っています。

クリエイターが騙されないように

脇 なるほど、素晴らしい挑戦ですね。クリエイターの支援はどんなことをされているのでしょうか。

山田 クリエイターが傑作漫画などの作品を作ったとしても、契約や交渉で騙されて作品が世に出せなくなることがあります。
特に十代や二十代前半の若いクリエイターは不利な契約をさせられやすく、本当だったら生まれるはずの傑作漫画が消されてしまうという状況が自分は嫌で許せなくて。そういう可能性を秘めたビジネスの初心者に対して一対一で専門家がサポートして助けたいと思い、クリエイターのバックオフィスのパートナーになる事業をしています。
そして、その最初の一歩として、『クリエイター1年目のビジネススキル図鑑』という本を出版しました。
一冊読んでもらえば、少なくともビジネスの初期で不利になったり、騙されることは無くせると思っています。

脇 なぜクリエイター支援をやろうと思ったのですか。

山田 以前、エンタメ関係の会社で弁護士として働いていたので、その時にクリエイターの持っている課題感を知ったんです。
自分がやるべきことはこれだと思って二年くらい前から始めています。

10年後も一緒に飲み続けるために

脇 それぞれが素敵な活動をしているお二人が一緒にやっているベンチャーキャピタルについて聞かせてください。

藤田 主にスタートアップ支援として創業期に投資をしています。岡山って投資をする文化があまりなかったんです。だから投資家がいない。
そんな状況ではスタートアップは生まれないから、誰かがリスクを負わないといけないと思い、ベンチャーキャピタルを作りました。

脇 そうは言ってもお金を集めるのって大変ではないですか。どうやって集めたんですか。

藤田 お酒を飲みに行きます(笑)
実際、お金を集めるのはすごく大変です。自分たちなりに「地域にゆかりのある企業や個人に投資をしてもらうこと」というルールを作っていて、「岡山の人が岡山に!」をコンセプトに、エリアは少し広げ、瀬戸内・中四国限定という形にしているので、より一層難しい。
今は1億円出資してもらっていますが、地元愛のある人に、地元を応援するような想い、仲間と仲間を繋げるような形で投資(応援)してもらっています。
僕はこれまで投資なんかしたことはないし、酒屋との兼業だし、兼業でこんなことやっている人はいないと思いますが、こんな僕を信じてもらえるのはありがたいです。

脇 どうやって信じてもらうんですか?

藤田 合言葉があって、「僕を信じてください!」です(笑)。
中には可愛がってくれる偉い人もいて、そうした人が他の経営者を紹介してくれたりして。そんな流れで信頼してもらえたりというのもあります。
そこでも「僕を信じてください!」と言い続けて、応援してもらっています。

脇 言い続けることの大事さですね。地元・岡山の投資家に応援してもらって、地元のスタートアップを応援しているのは理想的ですね。

山田 僕は、地方だからといって「ここに生まれたからできない」という状況が納得できないんですよ。
僕も言われてきたのですが、「何かしたかったら東京に行け」。これって乱暴じゃないですか。家族とかいろんな理由で、地元から出ていけない人は夢を諦める。それはおかしいので、地元にいながらやりたいことをやれる状況を作りたいんです。

藤田 僕もそうです。スタートアップが好きだけど、僕には家業があるので、東京には行けない。家業をやりながら他の事業をしてきて、十年間その難しさと戦ってきたんですよ。
だから、そういった地域にいることが足かせにならないような世界にしたいと思っています。

脇 スタートアップが好きっていうのは、どういうことなんでしょうか。

藤田 趣味みたいなもので、自分がやるのも好きだし、やっている人も好きです。
だから応援したいし、そういう人たちと一緒にお酒を飲むのが好き。今後も飲み続けるし、そういう状況を続けるためにも一緒に飲める起業家を周りに生んだり、育てたりしたいんです。
そして、その人たちと楽しく飲むためには自分自身も成長し続けなければいけない。置いていかれないように常に挑戦する必要があると思っています。彼らは本当にすごいので。
自分自身、十年後も起業家として一緒においしい酒が飲めるよう、いつまでもプレイヤーであり続けたいと考えています。

脇 一見緩く見える、けれどもそれを達成するためには大きな努力がいる、そんな素敵なビジョンですね。

二人だからやれること、やりたいことがある

脇 お二人の取り組みは、インターンやフリースクールなど、一見すると大きなことをやっているように見えるけど、全て目の前に人がいるんですね。
あの人がこうだからこうしたいとか、N=1というのを大切にしているんですね。
「ももスタ」が、まさにそういった一人と出会える場所なのかもしれませんね。

藤田 以前からこのような活動はしていて、令和元年の8月に「ももスタ」が誕生しました。
そして行政の方から声をかけてもらってアドバイザーとして関わらせてもらうようになり、よく来させてもらうようになりました。

 二人がやられていることは、まさに公の役割だと思うのですが、最初から行政に対して何かを求めているわけではないところが、ポイントですよね。
行政との関わりを持つと、どうやったら補助金がもらえるかから入るケースも多いなと感じていますが。

藤田 自分たちから行政に補助金をもらいにいくことは考えていません。自分たちがそれなりの活動をして成果を出していれば、行政の人から声をかけてもらえるだろうと考えていたので。
基本的に、僕たちは何かに合わせようとしません。自分たちの好きなようにやって、一緒にやりたい人と関係を持ってやっています。
「ももスタ」で出会う人たちの課題や困っていることなどに触れ、そこを助けたいという想いが生まれて、今のいろいろな活動につながっています。

脇 それぞれの活動がある中、藤田さんと山田さんの二人で一緒に活動をする理由はなんですか。

山田 補完関係にあると思っています。お互いポンコツなので、励ましあえるところでしょうか。
弁護士崩れの僕と酒屋のニーチャンで(笑)役割分担もしていて、柔らかい感じのことは藤田さん、固い感じのことは山田が担当しています。
人間関係は藤田さんが得意なので、そこを任せています。そして藤田さんのことを嫌いな人は山田のことを好きになってくれるので、交わる人の役割分担ということもできてますかね(笑)

 最後に、今後、二人が描いている世界はどんなものでしょうか。

山田 東京の人でも岡山の人でも能力の差はないと思っています。
だから、生まれた場所でやりたいことが叶えられる社会の実現に向けてい一緒に走って行けたらと考えています。

藤田 僕は、「豊かに生きる」ことですね。
二人で役割分担、能力を補完しながら、どこでも誰でも活躍できる社会の実現に向けて、起業家と伴走し、美味しいお酒を飲み続けたいですね。
そして、二人で走った先にある成長した人との再会で、また美味しいお酒が飲めることを夢見ています。そのために今できることを全力で楽しみながら走り続ける。
その過程が「豊かに生きる」につながると思っています。

脇 お二人は、自分自身が地元で実現したいことに挑戦するプレイヤーでありつつ、挑戦したい若い人が地元で思いを実現するためのサポーターでもある。
これが強みであり優しさの原点でもあるなと感じました。今日はお二人ともありがとうございました。


岡山にないならつくる!山田さん、藤田さんのスタートアップ事例

完全無償化を目指す、不登校の子どものための「フリースクールもえぎ」

学校に行かないという選択をした「不登校」の子どもたちの裏にある心の痛みに寄り添い、社会の中で自立をしていくため「もう1つの居場所」となるべく立ち上げられたフリースクール。
費用面の不安を取り除き、こういった場を本当に必要としている子どもたちが将来のことを安心して考えることができるよう、段階的に料金を無償化。
寄付による完全無償化での運営を目指している。
https://1ziku.jp/moegi/

瀬戸内エリアに特化したベンチャーファンド「Setouchi Startups」

「地方にはいいスタートアップがない」、「地方にはVCがないからスタートアップは成立しない」という悪循環を解消するために、2022年2月に山田さんと藤田さんが立ち上げたベンチャーファンド。
地域に不足しているのは起業家の数ではなく、創業期を支えるシード投資家であるとの想いのもと、瀬戸内から新しい産業を生み出すことを目的としている。

https://setouchi.vc/

学生から企業まで岡山のスタートアップマインドを育み、繋ぐ

ももたろう・スタートアップカフェ(通称:ももスタ)

岡山市北区駅前町1丁目8番地18号
https://momosta.com

産官金連携のもと、スタートアップ支援の拠点施設として令和元年8月に立ち上げ。
現在、岡山市、中国銀行、トマト銀行、おかやま信用金庫、岡山商工会議所が共同で運営している。
岡山市内では、独立系VCの「Setouchi Startups」の設立や山大学起業部の発足などの動きもあって起業の裾野は拡大し、ももスタでの事業成長を目的としたイベントやプログラムなどへの参加者も増加傾向。スタートアップ機運が高まっている。

岡山市より
岡山市は、ももスタの起業家コミュニティや支援プログラムなどを通じて、地元企業、大学、金融機関、投資家、公的機関等が有機的に連携した支援環境づくりを促進し、スタートアップが継続的に生まれ、成長するスタートアップエコシステム(生態系)の形成を目指しています。

岡山市産業観光局商工部産業政策課
課長代理 二ノ宮和人さん
(現部署名:岡山市産業観光局商工部産業振興課 課長)


Profile

藤田 圭一郎

(有)藤田酒店 店主
(株)COMPUS 代表取締役
家業の業務用酒販店にアトツギとして入社後、傍らで地域にフォーカスしたWebサービスを複数立ち上げ起業。
現在は「地方学生のための長期インターン求人COMPUS」の運営に注力している。
2016年より岡山にスタートアップ文化を根付かせる為の活動を行なっており、岡山市スタートアップ支援拠点「ももスタ」のコーディネーターを務める。

山田 邦明
しろし inc.CEO
弁護士、 筑波大学非常勤講師
無花果高等学園CEO
京都大学法科大学院を卒業後、スタートアップ向け法律事務所で弁護士として活動。知的財産や資金調達に関する契約業務などに従事。
その後、株式会社アカツキにジョイン。
管理部門の立ち上げ、IPO業務の主担当として、上場に貢献。 岡山県に帰郷後、クリエイターのパートナー事業「しろしinc.」、教育事業「無花果高等学園」をはじめる。

脇 雅昭

よんなな会/オンライン市役所発起人
神奈川県理事(いのち・未来戦略担当)  
宮崎県出身。2008年総務省入省。
現在は神奈川県庁に出向し、理事として官民連携等の取り組みを進める。
プライベートでは、全国の公務員がナレッジや想いを共有する「よんなな会」「オンライン市役所」を立ち上げ、地方創生のためのコミュニティ基盤づくりを進めている。


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