官民金の連携でつくる地域の循環。
「えこひいき」がつくる未来
TURNS vol.533 2022年6月掲載
オンライン座談会
近年、社会の多様化により、従来の官民連携だけでは解決できない課題が、それぞれの地域で生まれています。
そういった中で、行政、企業に加え、金融機関とも連携することで、持続可能なまちづくりを進めている地域があります。
今回は官×民×金の連携により、持続可能な地域を目指す富山県高岡市の取組について、それぞれの立場からお話を伺いました。
ゲスト
角田 悠紀
富山県・高岡市長
花田 将司
いなほ化工株式会社 代表取締役
公益社団法人日本青年会議所社会グループビジョナリーシティ会議議長
中田 勝久
株式会社富山銀行 執行役員ソリューション営業部長
コーディネーター
脇 雅昭
よんなな会/オンライン市役所発起人
神奈川県理事(いのち・未来戦略担当)
変わり始めた、官民連携のかたち
脇 行政、企業に加えて金融機関が連携していくことが、今後の地域社会において重要になっているとのことですが、それぞれの立場で、どういった課題感をお持ちでしょうか?
角田 これまで行政と民間の関わりは、地域の企業に補助金を出して事業をやっていただくという形がベーシックでした。
行政に持ち込まれた社会課題を解決するために、お金を出すという枠組みです。しかし、人口が減少して財源に限りもある中で、補助金頼みの課題解決は持続可能とは言えません。
これからの行政の役割は、持ち込まれた社会課題を「ビジネスの種」というポジテイブな形に変換し、それを解決できる民間企業に渡して、新たなビジネスを生んでもらうこと。
そこに金融機関も関わってもらうことで、地域を発展させたいと考えています。地域の企業にはしっかりと〝儲けてもらいたい〟と考えています。
花田 角田さんが言うように、今までは社会課題を解決するのは行政の役割という空気がありましたが、行政だけで解決できる課題って現実的にはそれほど多くありません。
なので、今は民間企業が社会課題をビジネス化して、解決することが大事だと思っています。
お互いに役割分担をして、どのように解決していくかを考えていくことが重要ではないかと。
だからこそ、「官民連携」の形はこれから変わっていくと思います。
これまで課題の中心には行政があるという捉え方をされていましたが、中心は「社会」です。
社会全体を良くしていくためには、これまで以上に様々なステークホルダーと連携する必要がある。目指すは、三方良しをさらに発展させた「八方良し」。
まち全体で循環する仕組みです。その循環には、お金や金融機関は不可欠。
官民だけでなく、金融機関等も含めて、地域の様々なステークホルダーと課題を共有していきたいと思っています。
中田 そういう意味では行政や事業者だけでなく、金融機関に求められる役割もどんどん変化しています。
これまでは、預けていただいたお金をご融資させていただき、その利ざやで収益を上げることが主でしたが、それだけでは地域は良くならない。
花田さんがおっしゃる通り、複雑な社会課題を解決するには様々なステークホルダーと協働する必要があります。そこに、金融機関が培ってきた企業とのつながりを活かした「コーディネーター」としての役割が生まれています。
地域内の連携だけでなく、地域の内・外をつなぐことも大事です。
経済や産業が首都圏に集中している中で、高岡市をはじめ地方にノウハウやお金を持ってくる仕組みが必要。
例えば、首都圏のベンチャー企業と県内の行政や企業をつなげるといったように、〝知〟を持ってくる流れを作りたいと考えています。
資本が循環する地域づくり
脇 行政・民間・金融のそれぞれの立ち位置や目線がある中で、具体的に連携して課題解決に取り組まれている事例はありますか?
中田 高岡市さんとは、企業版ふるさと納税を一緒に取り組んでいます。
全国の23の金融機関と連携して、高岡市さんの地域再生計画をご紹介し、寄附をして頂く企業を集めています。年度内には全国50の金融機関と連携する予定です。
実際に、寄附していただいた企業もありました。
角田 高岡市としては「稼げる自治体を目指したい」という思いがあります。
人口が減少して税収が減る一方、核家族化が進んで世帯数が伸びていることもあって、住民要望は増えています。お金が減っているのに要望は増えていく。
このギャップを埋めるには、高岡市が稼げる行政になる必要があると考え、ふるさと納税に力を入れています。そんなときに富山銀行さんから、企業版ふるさと納税を全国の金融機関と連携して集めるスキームのご提案をいただきました。
連携して取り組めているのは非常にありがたいと思っていますし、自分たちができないことを金融機関の皆さんにご理解いただいて、協力してもらうことがまず大事だと思っています。
そのために必要な情報は積極的に出しています。
中田 首都圏に集中している資本を富山に流動させて、産業を盛り上げていけたらと考えています。さらに、地域の課題解決に寄与する新しい仕組みを作っています。
現在、「SDGs私募債」という、企業が発行した私募債に応じて受け取る手数料の一部を寄附する金融商品がありますが、この進化版のようなものを検討しています。
花田 SDGs私募債は、私たちのような民間企業が、資金調達をするために私募債を発行すると、その手数料の一部が地元の母校などに寄附されて、企業も銀行もSDGsに取り組んでいることがアピールできるものです。
ただ、実際にSDGs私募債を発行してみて、「寄附される」というスキームに違和感があったんですよね。それってSDGsの本質を得ていないんじゃないかって。
そこで、様々なステークホルダーがつながり、まち全体で循環を生み出すために、富山銀行さんに新しい仕組みを提案させていただきました。
中田 花田さんから提案いただいたのは、SDGs私募債をはじめとしたSDGs関連融資商品の寄附金の一部を、SDGs達成のために取り組んでいる企業や人を支援するために使えないか、というものです。
具体的には、今年度開催する「SDGs アワード」という、長期的な社会課題解決を目指すビジネスプランコンテストで、賞金に活用させていただくというものです。地域のSDGs達成に向けた一助になればと考えています。
花田 ポイントは、お金の循環に加えて、つながりも生まれるのではないかという点です。
例えば、高岡市出身者がUターン起業したいとなったとき、コンテストにエントリーしてもらう。そこでSDGs私募債で銀行にプールされたお金を賞金として起業資金に充てつつ、私たちのような私募債を発行している民間事業者が審査会に入る。起業する人は資金調達できますし、高岡の事業者は新しいベンチャーの情報を得られて、ビジネスマッチングにつながる。
そんな世界を描いています。
角田 都会で行われている起業家のピッチイベントのようなものを、富山銀行さんのスキームでできるといいんじゃないかと考えています。
行政としては、イベント会場を提供できますし、ピッチの結果で投資が決まったというときに、学ぶ場所、働く場所、住む場所などを用意できます。
例えば、その場所に古民家を使ってもらえたら、空き家問題の解決にもつながります。
既存の経済を回しながら、地域に新しいビジネスを生んで、未来への投資も進めていく形ができると、行政としても関わりやすくなりますね。
花田 このスキームができれば、県外に流失している関係人口の人たちからの資金をプールしてもらうとか、そこから県内で起業しようと思う人が増えるとか、いろんなことに展開できるのではと考えています。
今までだと、UターンやIターンの促進って行政とか商工会が補助金を出して、というようなやり方でしか解決できなかったのですが、この仕組みを作ってしまえばお金も使わなくてよくなりますよね。
これぞ、役割分担して地域全体で取り組んでいくということだと思います。
地域と人、企業、そして全国の金融機関をつなぐ
富山銀行の取り組み 1
全国の地域再生計画と企業をマッチングする、企業版ふるさと納税支援事業
富山銀行では高岡市をはじめとする連携自治体の地域再生計画を企業に紹介し、企業版ふるさと納税を活用して寄附のマッチングを行っている。企業版ふるさと納税では、法人税等から最大で寄附額の約9割の税額軽減を受けることができるため、地域貢献とともに企業側にもメリットがあり、同時に従業員のモチベーションアップや、企業イメージの向上にもつながる。
現在、全国23の金融機関と連携しており、これを50に拡大することを目標とするとともに、全国自治体とのマッチング強化を目指している。
「富山銀行SDGs私募債」 をビジネスプランコンテストに活用。
地域経済と人との関連性を生み出す
企業のSDGsの目標達成に向けた支援を目的に、2021年6月から開始された「富山銀行SDGs私募債」。従来は富山銀行が私募債の発行手数料の一部を原資に、発行企業が指定した学校などへ寄贈を行う取り組みだったが、地域経済の循環に役立てるため、使用用途を拡張。企業と人材のマッチングを目的に、長期的社会課題を解決するためのビジネス プランコンテスト「SDGsアワード」を開催。
私募債を発行している民間事業者が審査会に入り、コンテストの優秀賞には賞金を贈呈するとともに、新たなベンチャー事業者と私募債発行企業との交流の機会となることで、ビジネスアイデア、そして人とのパートナーシップを創出するのが狙い。
小さな循環の積み重ねで大きな循環を生む
脇 お金の使い道を整えて、寄附だけでなく新しいビジネスを生み出すための資金にすることで、様々な可能性が生まれるのが面白いですね。
角田 そうなんです。社会課題と向き合っているのは市役所だけでない。民間事業者も金融機関も様々な団体も含めて、社会のステークホルダーなんです。
そこを共有することが、地方創生の一番大事な所じゃないかと思っています。
花田 そういったところで、僕ら民間っていうのは、スタートダッシュは得意なんですが、大きな仕組にするのは弱いんですよ。なので、民間で社会実験して、いいものを行政が仕組化して、確立したものにするっていう連携ができるといいですよね。
民間も自分たちの身銭を切って社会実験をやっているので、そんな本気度の高い人たちがどんどん増えてくると良いと思います。
そこには必ずお金が必要になってくるでしょうから、富山銀行さんにも絡んでもらいながら、地域の社会や経済を回していきたい、というイメージですね。
脇 それぞれ違うつながりを持つ三者が連携するからこそ、多くのステークホルダーを巻き込んだ大きな循環になるのですね。
そのためには、行政の組織も変わっていくことが大切だと思いますが、角田さんが市長になってから意識していることはありますか?
角田 一つは「入ってきた話を寝かせない」ことを意識しています。
様々なステークホルダーと連携をする上で、民間事業者と同じでなかったとしても、少なくとも民間事業者に迷惑をかけないスピード感で対応する必要があると思っています。そのために、今の仕組みの中でどうすれば実現できるかはしっかり答えますし、行政だけで難しいことは「難しい」と答えるようにしています。
「できない」と答えられないから、ずるずると回答に時間がかかるということをなくしたいのです。職員にも、時間を空けずに前に進めるために、50%に満たないくらいの煮詰まり具合でも、なるべく早く相談するように伝えています。
また、「全ての未来を考えて施策をつくる」ということで、「未来課」という組織を新しく作りました。今日もすぐ隣の席で仕事をしています。
高岡市未来課・村田 未来課は市長との距離感がかなり近いです。事業を展開するスピード感というところでは、意思疎通も含めてすごく仕事がしやすくなりました。
また、花田さんや中田さんも含めて様々な方と関わるのは刺激的です。今後もいろんな事業を連携して展開していきたいと考えています。
角田 新しい組織なので、市役所内でも注目されています。
この未来課の職員の働きから、市役所全体の働く意識を変えていければと思っています。
「えこひいき」で強くなる地域の連携
脇 様々な事業が生まれる中で、金融機関のお金を循環させる役割はとても大事だと思いますが、それは金融機関のビジネスとしては成り立つのでしょうか。
中田 富山銀行は、全国や首都圏に支店がありません。
お客様の基盤はほとんど高岡市をはじめ地元の方なので、地元のことを一番に考えて「えこひいき」ができます。それは銀行のカラーになりますし、大きな強みです。
地元のためになることに力を入れれば入れるほど、地元の企業がより利用してくれるようになるからです。
持続可能な地域の未来に貢献したいという思いはもちろんありますし、それが銀行のためという点も考えながらやっています。
角田 「地元にえこひいき」ってすごくいいキャッチフレーズですよね。
例えば「高岡は富山銀行に支えられてます」となれば、富山銀行と取引のある企業にとって富山銀行の価値が上がることにもつながるので、そこでまた新たな循環が生まれていくと思います。
花田 僕も同感です。地方創生には地域に根付いた金融機関が絶対に必要なんですよ。
今までの直線の経済から循環の経済に変化していく中で、中田さんが仰られていたコーディネーターとしての役割を担いながらお金を流していくのは、やっぱり地域に根付いた銀行じゃないとできないと思うんですよね。
地方の銀行だからこそいろんな企業を知っていて、行政のビジョンを共有しているわけですから。
脇 地域に根ざした金融機関だからこそ、お金が地域の循環の中でどう流れていくかはっきりと見えるということですね。
それが地域を盛り上げつつ、金融機関にも価値をもたらすというのは素敵ですね。
角田 「まちのことを考えたら自分が潤う」というのはすごく大事な視点だと思います。また、花田さんと私は高岡青年会議所に所属していますが、常日頃から高岡市の未来について熱い議論を交わしています。
さらに多くの人たちと一緒に考える枠組みをつくりたいです。よく、まちのビジョンを決めてほしいと言われることがありますが、まちの未来を決めるのは市長じゃない。一人ひとりの市民と一緒に考えるべきなんです。
その枠組みをつくりながら、未来に向かって地域全体での循環をつくっていきたいと考えています。
脇 行政に持ち込まれた課題を、ビジネスの種として民間企業に渡す。そして、そこで生まれた事業に金融機関がお金を流して、循環をつくる。
さらに、それぞれの視点から見えているものをつなぐことで、小さな循環が大きな循環につながり、地域に新しい価値を生み出すことができるのですね。これまでの行政、民間だけでなく、金融も合わせた三者がつながるからこそ生まれる循環に、地域の可能性を感じました。
本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
Profile
角田 悠紀
富山県・高岡市長
高岡市出身。大学卒業後、富山テレビ放送入社。報道部に在籍し、記者、フィールドキャスターを担当。在職中に高岡市のスポーツを盛り上げるべく一般社団法人高岡スポーツユナイテッドを設立。2016年富山テレビ放送退職後、高岡市議会議員を経て、2021年より現職。
花田 将司
いなほ化工株式会社代表取締役
公益社団法人日本青年会議所
社会グループビジョナリーシティ会議議長
富山県高岡市出身。三井物産アグロビジネス(株)で約7年働いたのち、家業である富山県高岡市のいなほ化工株式会社に入社。営業部長、取締役室長、常務取締役を経て、2020年に社長に就任。JCI高岡に所属し、まちづくり・人づくりに携わりる。社業を通じ社会課題解決を行うことを軸に、まちづくりにコミットしている。
中田 勝久
株式会社 富山銀行 執行役員
ソリューション営業部長
富山県小矢部市出身。1992年桜美林大学卒業後、株式会社富山銀行に入行。2014年営業統括部次長、2016年小杉支店長、2017年富山支店長、2021年執行役員 富山地区統括富山支店長、2021年執行役員 企業金融部長、現在に至る。地域及び企業の課題解決に取り組んでいる。
脇 雅昭
よんなな会/オンライン市役所発起人
神奈川県理事(いのち・未来戦略担当) 宮崎県出身。2008年総務省入省。現在は神奈川県庁に出向し、理事として官民連携等の取り組みを進める。プライベートでは、全国の公務員がナレッジや想いを共有する「よんなな会」「オンライン市役所」を立ち上げ、地方創生のためのコミュニティ基盤づくりを進めている。
編集・島田 龍男
文・岩倉 竜矢 撮影・荒井 勇紀
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