社会課題を解決する究極のコミュニケーション
ゲームが持つ真価とは

TURNS vol.46 2021年4月掲載
オンライン座談会

ゲームには、医療、教育、福祉などあらゆる分野の社会課題を解決できる力があることをご存知でしょうか。
今回は、元福岡県庁、福岡市職員で現在は福岡eスポーツ協会会長の中島賢一さん、ゲームを医療の現場に活用する三宅琢さん、ゲームのオンライン家庭教師「ゲムトレ」代表の小幡和輝さんをゲストに迎え、これからのゲームの可能性について語っていただきました。


ゲスト

三宅 
公益社団法人NEXT VISION 理事

中島賢一
西日本電信電話株式会社ソーシャルプロデューサー

小幡和輝
株式会社ゲムトレ代表取締役社長

コーディネーター

聞き手

脇 雅昭
よんなな会/オンライン市役所発起人
神奈川県理事(未来戦略担当)

堀口正裕
TURNSプロデューサー


心が豊かになる社会を目指して

堀口 社会課題を解決するためには楽しむこと、ワクワクすることが大切だと思います。中島さんはその点はどうお考えですか。

中島 便利なだけでは世の中は豊かにはならないので、心が豊かになる社会を作りたいと考えています。現在、NTT西日本で社会課題をエンターテインメントで解決する業務に就いています。他にも福岡eスポーツ協会の会長もさせてもらっています。
これまでビジネスでしか世の中を見ていませんでしたが、福岡県、福岡市と行政に転職したことがきっかけで、お金儲けだけではない、豊かな社会があることを知りました。

堀口 転職がきっかけでそう考えるようになったのですか。

中島 そうです。福岡市職員になって、コンテンツ振興課という部署に配属になりました。
そこでゲームを通して世の中を変えられるのではないかと思うようになったのです。
今では、ゲームは人を救うものだと感じています。後ほど事例もご紹介します。

三宅 私は眼科医、産業医、社会医として医療や健康を突き詰めていったときに辿り着いたのが「遊び」でした。
便利な世の中になりましたが、患者さんの心の豊かさには繋がらない。そこで、楽しくて夢中になるのは何かと考えたとき、ゲームにはその力があると感じたのです。
今年は、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、障害の内容に関わらず、処方の1つとしてゲームを紹介しています。

ゲームは悪なのか

堀口 私自身、ゲームはコミュニケーション能力を高める効果があると思いますが、一方でゲーム脳といわれる批判的な意見も過去にはありました。医師の立場である三宅さんはどのようにお考えですか。

三宅 ゲーム脳とか依存症とか批判されがちですが、白黒つけようとし過ぎではないかと思います。それならば、砂糖やアルコールの方がよっぽど体に悪い。これらは適量がどれくらいかと議論されますが、ゲームにはそれがない。実際に成功事例があるのに、ゲームの教育的効果が議論されていないことが問題ではないでしょうか。例えば肢体不自由な方が、ゲームの中では自由に動き回れます。負けたり失敗したりできることは貴重な経験になります。やっていいことや悪いことも学べる。医師の立場からも、ゲームを根底から変える議論をしていきたいと思っています。

 さらに、今回はゲームという視点から官民連携の可能性を伺っていきたいですね。

医療の限界を超えるゲームのポテンシャル

三宅 産業医としてIT企業の社員の方と面談をしたときに、運動してくださいと言ってもしてくれなかった。
なので、ニンテンドースイッチの「リングフィットアドベンチャー」という体を動かすゲームを勧めました。すると筋肉痛になるほど真剣に取り組んでくれたんですよね。ゲームは何かを始めるモチベーションになるのです。
ある目の不自由な子がRPGゲームをやりたいと言っていたのですが、1人ではクリアできなかったんです。そこで、目は見えるけど操作は苦手という子とオンラインでタッグを組んでゲームをやってみたところ、なんとクリアできたんですね。
今はコロナの影響もあって、現実で肩を貸したりする歩行支援が難しいですが、ゲームの世界でコミュニケーションをとって協力して、お互いハッピーになる。コミュニケーションがとりづらい今、とても素晴らしいことだなと。

もうひとつ例を挙げると、弱視の方だったんですが、ニンテンドーDSをやりたいという想いがきっかけで、視覚障害者用の拡大モニターを見る訓練をして、本まで読めるようになったこともあります。ゲームというツールを通せば、障害や世代を超えて交流できたり、やる気を出すきっかけになるんです。こうした可能性をもっと多くの方に知ってもらうために、障害を持つ方が工夫しながらゲームを楽しむ方法をシェアする「G-1グランプリ」も開催しています。


ゲームと社会の新たな関わり方を示すイベント&実験 1

ゲームの楽しみ方の多様性を知り、共有する
G-1グランプリ NEXT VISION

障害をもつ人たちが日頃どのようにゲームを楽しんでいるのかを動画で投稿し、共有するオンラインイベントで、今年5月に開催された。
目の見えない人や、手足がうまく動かせない人が、創意工夫しながらゲームを楽しむ姿やプレイ方法を紹介し、自らが解説。
多様な楽しみ方を共有し、メーカーや社会へと届けることで、あらゆる人がゲームを楽しむための「アクセシビリティ」の向上へと繋げることを目的としている。
目の不自由な女性が、友達や家族とタッグを組んでガイドをしてもらいながらRPGを楽しんでいるといった受賞作もあり、コミュケーションツールとしてのゲームのあり方にも、さまざまな気づきを与えてくれている。


教育と職業の可能性を広げるゲームのチカラ

堀口 今度は小幡さんから、ゲームに対する考えを教えていただけますか。

小幡 僕は「楽しく脳を鍛える」ことをテーマに、ゲムトレというゲームを教える家庭教師をしています。マインクラフトとかフォートナイトなど、トレーナーがオンラインで子ども達に教えるサービスです。
今、250人くらいの生徒さんがいます。僕自身、過去に不登校になっていたんですが、ゲームのおかげで社会人の友達ができて自信につながったりと、何度も救われてきました。その経験から教育に関心があって、今の事業を続けています。

堀口 小幡さんはゲームでの社会貢献をどのようにお考えですか。

小幡 まず、ゲームの良さを知ってもらうためにもネガティブな誤解を解いていきたいです。
親と子の世代では、まだまだゲームに対する考えにギャップがあります。親がゲームの内容を理解していなくて偏見を持っていることが課題だと思っています。
例えば、スポーツでは悔しくて叫ぶことは当然あることだし、ごく自然の行動ですよね。でもゲームだと「うちの子は大丈夫か?」となってしまう。
ゲームの内容やルールを理解することは、子どもの気持ちを理解することに繋がります。

堀口 ゲームの家庭教師は親に対してもアクションされてるんですか。

小幡 教えた内容をテキストにして、親にどんなことをしているか伝えるようにしています。
野球や将棋でも習うように、正しい接し方を教えます。暴言やマナー違反はしっかり叱る。それがコミュニケーションや教育にも繋がると思います。

 ゲムトレはどんな子ども達が参加されてるんですか。

小幡 利用者は小学校高学年が多いです。不登校の子もいれば、ゲームを習いたい、プロを目指したいという子まで様々です。
この事業を通してゲームを学びたいという子どもだけではなく、ゲームの家庭教師という職業を作ることも一つのミッションだと考えています。トレーナーは高校生や大学生。オンラインなので、遠方や海外の子どもたちに教えることもあります。

 ゲームが好きな人なら誰でもトレーナーになれるんですか。

小幡 誰でもなれるわけではないんです。ゲームの技術だけでなく、教えるスキル、説明する力、マナーや言葉遣いも大切にしています。研修も受けてもらってるので、採用倍率は高いです。
しっかり報酬も払うので、良い仕事にしていきたいと思っています。

三宅 企業のマネージャー研修にも向いていますね。ゲームを教える姿でその人の性質が分かる。

小幡 ゲームを教えることは、すごく仕事に繋がる話なんです。ゲームを教えるのが上手い人は仕事もできると思います。
ゲームのルールを理解して、プレイヤーの理解度を見定めて、段取りを考えて計画的に教えたり。人を見て考えないと教えられないんです。

 ゲームトレーナーになった方には心境の変化があったりしましたか。

小幡 モチベーションが上がったり、自信に繋がったり、本人が成長していきます。
例えばトレーナーになって月10万円くらい稼いだら、親の見る目も変わります(笑)。

 誰かの役に立つことが、自己肯定感に繋がるんですね。

中島 それでいうと、大阪の事例で「レクリエーション介護士」の資格を吉本興業の芸人さんに取ってもらって、高齢者施設で芸を披露してもらうという取組をしています。
最初は抵抗があったかもしれませんが、今では200人ほど登録いただいていて、お仕事の幅を増やすということに繋がりました。
例えばシステムエンジニアの方がゲームでレクリエーションを企画する。そんなことも十分できると思います。

福祉にも応用されるゲームの可能性

小幡 まさにシニア層に向けたゲームトレーナーができないかと考えていました。脳トレにも繋がるし、ゲームの可能性に気づいてもらいたいですね。

中島 以前、神戸市さんからeスポーツで賑わいを作りたいと依頼がありました。確かに賑わいを作ることは大切ですが、高齢化が進んでいる社会に対してゲームで課題を解決しませんかと提案しました。最初は手探りながらでしたが、高齢者のリハビリ施設にNTTの社員を派遣してゲーム(ぷよぷよ)を楽しんでもらう「ココロの見える化実証実験」を行ったところ、結果的に皆さんすごく楽しんでいて。楽しいということが、苦手なことや嫌なことも前進させてくれる。高齢化社会もポジティブに捉えればいいと思います。


ゲームと社会の新たな関わり方を示すイベント&実験2

「ハラハラ・ドキドキ」が高齢化社会を元気にする

ココロの視える化実証実験
神戸市・NTT西日本・株式会社セガ・リハビリモンスター

神戸市で行われた「老人が活き活きと暮らすまちづくり」のためにeスポーツを活用する実証実験。リハビリ施設で対戦型の「ぷよぷよ大会」を実施した。
対戦風景はバーチャルな背景が合成され、施設入居者が観客となって、別の部屋でスクリーンを観ながら応援。
画面には対戦者の心拍数と数値の揺らぎをグラフで表示し、ハラハラ、ドキドキしながらプレイに夢中になることが、いかに生活に張りを与えるかを見える化した。
プロスポーツのような臨場感あふれる演出に実況も取り入れたことで施設全体で楽しめるイベントとなり、参加意欲も高まって施設入居者の「ぷよぷよ」の腕前も上達。
イベントは現在神戸市内4箇所の施設で継続的に行われている。

三宅 ゲームは、身体性を伴わないのが大きな特徴の1つですね。障害に合わせてゲームができるアクセシビリティ(専用のコントローラーなど)や環境さえ整えば、目線とか瞬きでもプレイできます。
ゲームはパラスポーツの最たるもので、誰もが参加できる。バリアフリーなんです。
先日のイベントでは、寝たきりの方が、誰かに勝つ経験を一度してみたいと言っていて、コントローラーを工夫して練習されたそうで、ゲームに勝ったときには「嬉しかったです」って喜ばれてました。
勝ち負けを経験できるのは、教育的な効果も期待できると思います。

中島 さらにゲームは世代も超えられると思います。
先日開催した九州のeスポーツ大会では、参加者の最高齢が62歳、最年少は9歳でした。これだけ世代が違っても、みんな共通の趣味・話題で盛り上がれるんです。
腕前を尊重するからお互い敬語で話したりしてて(笑)。

ゲームが繋ぐ世代間コミュニケーション

小幡 個人的には、10~20年くらいすれば、社内コミュニケーションとしてのゴルフコンペが、ゲームに変わっていくんじゃないかって思います。あくまでツールの話ですが、ゲームも十分その魅力があるんじゃないでしょうか。

中島 ちょうど紹介したい事例があります。NTT西日本グループは全部で7万人程の社員がいるんですが、社内交流イベントをスマホ版のサッカーゲーム「ウイニングイレブン」の大会にしたことがあります。これまでは駅伝大会とか、北陸から九州といった西日本の拠点ごとに開催してたのを全社でやろうって。その企画を任されたんです。そこで、全社員を対象にして、勝ち進んだ1800人から、さらに3ヶ月の予選を経て、残った8人が本社の大阪に集まり、決勝トーナメントを開催しました。ウイニングイレブンを制作してるKONAMIさんも「こんな大きい大会は史上初だ」と見に来てくれて「日本最大規模の社内eスポーツ大会」とニュースで特集されました。

 リアルなスポーツ以上に注目されたんですね。それは面白い(笑)。

中島 決勝トーナメントには、若手はもちろん、50代の部長も勝ち残っていました。決勝トーナメント出場者の家族も、大阪まで応援に来てくれて。
ちなみに優勝者は長崎の方でした。決勝トーナメントはオンライン中継して、全社員が観戦してコメントもできるようにしました。
付き合いでの参加になりがちな社内イベントですが、「今までで一番楽しかった」と参加者にも言ってもらいました。

堀口 リアルな感想ですね。

中島 社長もエキシビジョンマッチに参加してくれたんですが、誰も接待しなくて、叩きのめされてましたよ(笑)。
予選も3ヶ月かけたので、支店長が社員に参加を促して、仕事以外にもコミュニケーションとるようになったり、早く家に帰るようになったり。
予選の期間、社内が同じ話題で盛り上がってました。

 大人たちにもそんな変化が起きるんですね。

中島 決勝トーナメントに残った8人のプロモーションビデオを作って当日流したんですが、娘さんから応援のコメントを貰ってた部長は、感動して泣いていたんですね。ゲームを通して、コミュニケーションが豊かになることを肌で感じました。

ゲームが起点となる官民連携と地方創生

 ゲームの力を改めて感じますね。あるゲーム会社の社長は、ゲームに親しんでもらうことが社会に出るきっかけにもなると仰ってました。
行政は家に引きこもってゲームをしていることを社会問題と捉えてしまうけれど、全く違う視点もある。官民連携の新しい価値を感じてもらいたいです。

中島 この3年くらいでeスポーツに関心を持つ層が変化しています。
ゲーム業界を中心に結成された一般社団法人日本eスポーツ連合が立ち上がった当時は、自治体で参加してたのは自分くらいでした。
当初eスポーツは、対戦型のゲームで競技をするものくらいの認知度でしたが、2019年には収益性があると認識され始めて、企業の参画が増えました。そして2020年からは行政が増え始めてるんです。今70件ほどeスポーツ案件に関わってますが、そのうち50件は自治体なんです。

 そんな変化があるんですね。

中島 福岡市に勤めていた2019年に、ラスベガスでも行われている世界最大級の格闘ゲームの大会「EVO(Evolution Championship Series)」を福岡市に誘致しました。
日本では東京についで2箇所目でした。
福岡国際センターという会場で行ったのですが「大相撲九州場所が開かれるところだ」とアメリカ人にプレゼンしたら食いついてくれて。このとき、一般市民にもたくさん来てもらえるように仕掛けたので、東京よりも人出が多くなり、滞在期間も長くなったので、一般的なMICEの約10倍の経済効果があったとされています。
今はオンライン大会になっているので、こうしたイベント誘致は小さな自治体でもできます。さらに、これまでの話のように社会課題を解決する力が認知されてきたので、官民連携の可能性もすごく広がっていると思います。

究極のコミュニケーションとは

 最後に皆さんにお聞きしたいのですが、ゲームの持つ力って何だと思われますか。

中島 世代を超えてコミュニケーションがとれる力があると思います。
社内レクリエーションやイベントになると、年齢問わず教え合ってお互い尊重するようになります。こんな究極のツールは他にないと思ってます。

三宅 コミュニケーション不足がハラスメントを引き起こすので、解決の糸口にもなりますね。

小幡 自分も13~14歳頃に学校に行かなくなったとき、ゲームの大会を通じて、大学生や社会人の友人ができたことで視野が広がりました。
その経験は今でも鮮明に覚えています。世代を超えて繋がるゲームの世界は、新しい可能性を感じます。

三宅 ゲームでは、誰もが主人公になれます。たとえどんな障害があっても、走り回ったり、コミュニケーションを取ることができる。
ゲームをきっかけに人生が広がることは医療の範疇をも超える力だと思っています

 今日は3人にお話を伺えて本当に良かったです。今日の出会いをきっかけに、またゲームとの新しい連携が生まれてくれると嬉しいです。


Profile

三宅琢

医師、医学博士、眼科専門医
労働衛生コンサルタント
株式会社Studio Gift Hands
代表取締役
公益社団法人NEXT VISION 理事
愛知県出身。神戸アイセンター病院内に、眼科医・コンセプトディレクターとして、視覚障害者に対してゲームやios端末を活用した医療ケアを実践するビジョンパークを開設。産業医としても、数々の企業の職場環境を改善させるためのコンサルタントを務める。

中島賢一

西日本電信電話株式会社ソーシャルプロデューサー
大阪府出身。東京のIT企業から福岡県庁、福岡市へと転職。福岡に世界的なeスポーツ大会を誘致するなどコンテンツ産業を牽引。2018年に福岡eスポーツ協会を立ち上げた後、翌年NTT西日本に転職し、唯一の役職であるエンターテイメントプロデューサーとしてゲームによる社会課題解決に取組む。

小幡和輝

株式会社ゲムトレ
代表取締役社長
#不登校は不幸じゃない発起人
和歌山県出身。約10年間の不登校を経験した後、高校3年生で起業。SNSのプロモーション企画やイベント事業などを行う。ダボス会議を運営する世界経済フォーラムより、世界の若手リーダー「GlobalShapers」に選出。2019年に日本初のゲームのオンライン家庭教師「ゲムトレ」立ち上げ。

脇 雅昭

よんなな会/オンライン市役所発起人
神奈川県理事(いのち・未来戦略担当)  宮崎県出身。2008年総務省入省。現在は神奈川県庁に出向し、理事として官民連携等の取り組みを進める。プライベートでは、全国の公務員がナレッジや想いを共有する「よんなな会」「オンライン市役所」を立ち上げ、地方創生のためのコミュニティ基盤づくりを進めている。


編集・島田龍男

文・岩倉竜矢 撮影・荒井勇紀

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